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作業のことば 声を聴く 製パン班(2023年度)

 製パン班の作業は、パンとの対話によって成り立っています。パンの状態は、気温、湿度などによってさまざま。だから僕らは、パンがなるべく快適な状態で過ごせるように、パンの声を聴いてあげなければならないのです。
 昼休みを使って、僕らはパンをこねます。パンをこねる上で一番大切なことは、愛を込めてこねるということです。愛を込めてこねたら、パンはおいしくなります。手の熱をパンに伝えるようにこねるのです。パンを発酵させてくれる酵母菌が快適だと感じる温度は、だいたい人の体温くらいです。人のぬくもりがパンに伝わった時、パンはおいしくなるのです。そこに、パン作りの喜びがあります。

 朝、食堂でワイワイ喋りながらパンを食べる。私は、この時が大好きです。そこには、命のつながりが現れる。さまざまな命が集まってできているパンが、僕らの命をつないでいく。そのあたりまえで小さなことに感謝をおぼえます。同時に、この体験が貴重なものであることを感じます。

 人類はその歴史が始まった時から、家族単位、またはコミュニティ単位で食料を生産し、確保し、保存し、それによって家族またはコミュニティが存続するというサイクルを作ってきました。ところが現代では、多くの人が食料がつくられるプロセスをほとんど知らないどころか、食料をつくる努力をしなくても、お金さえあれば簡単に食料が手に入ります。このような現代社会に目を向けると、私たちは自分たちが食べる食べ物にもっと真剣でなければならないと思うのです。食べ物に真剣でないということは、自分の命を生きることにも真剣でないと言えるのではないでしょうか。自分たちが食べる食べ物がどこでどうつくられ、どのようなものであるかを知ろうとしても、容易に知ることができない社会は、命をいい加減に扱う社会ではないでしょうか。文明が発達するにつれて、人類は食料をより人工的、機械的に生産し、供給を安定させようとしてきました。それは、自然を相手にする食料生産を機械化しようとしているということです。

 「今、自然は私たちに対し、自然を制圧するなど人間のおごりだと大きな声で語りかけています。自然を制圧するという人間の欲望は、人間が自然と分離しているという信念から来ています。この二元論的な考え方こそが問題の根源なのです。人間は、他のあらゆる生物がそうであるのと同じように、自然の一部です。ですから、自然と調和的な対話をしながら生きることは今、緊急に必要とされていることで、私たち人間がこのコロナ危機に学ばなければならない最初の教訓です。」これはインド人のエコロジスト、サティシュ・クマール氏が、ごく最近語った言葉です。すべての生きとし、生けるものの声を聴き対話を重ねていく。それが、本当の食料生産の根源にあるのかもしれません。

 製パン班の作業は、そんな食料生産のプロセスのほんの一部を担っているにすぎません。ですが、その一部の中でも多くの声を聴いています。パンの材料は、神様がつくられた自然の恵みによって与えられたもの。このことを心に留めながら働くことによって自然の、食べものの、パンの声が聴こえます。それを聴いて対話を重ねていく。この収穫の時に多くの声を再び意識し、これからのパンづくりを続けていきたいと思います。

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